急拡大するロシアのサイバー犯罪組織 詐欺・ネット攻撃ツールの「デパート」、日本も脅威
ロシア語圏のサイバー犯罪コミュニティーが急速に拡大し、日本を含む世界各国の脅威となっている―。セキュリティーソフト大手のトレンドマイクロは7月、このようなリポートを公表して日本社会に警鐘を鳴らした。秘密裏に開設され、特殊なソフトウエアを通じてアクセスできる彼らのサイトでは多くの犯罪サービスが提供され、〝誰でも簡単に犯罪に加担できる〟環境が生まれている。そのような状況は、ロシアと政治的に対立する日本にとってより深刻な影響を与えることになる。
中国語圏からも利用者が参加
「日本のウェブサイトを攻撃したい。誰かサービスを提供してもらえないか」
ロシア語圏の犯罪コミュニティーサイト「RUTOR」に書き込まれた一文だ。その文章は中国語で書かれており、トレンドマイクロの岡本勝之セキュリティエバンジェリストは「影響力が高まるロシア語圏のコミュニティーに、中国語圏の利用者が参加している実態を示している」と断じる。
掲示板のように書き込みができるこれらのサイトは、多様な〝サービス〟を提供している。
例えば詐欺。岡本氏によると、企業などのホームページになりすまし、クレジットカード情報などを記入させるフィッシング詐欺では、メールなどの送り先のデータベースとサイト構築のための「キット」が販売されている。ロマンス詐欺では、異性のような声を生成できるソフトが売られており、詐欺目的の偽のメッセージを大量に送るためのショートメッセージ配信サービスもある。
ウイルスに感染したパソコンやスマートフォンを遠隔で操作するボットネットや、生成AI(人工知能)を使って偽の画像・音声を作るディープフェイク、攻撃の発信源をわからなくするソフトなど、あたかも「犯罪サービスのデパート」状態だ。さらに効率的に詐欺行為を行うためのオンラインレッスンや、犯罪者を精神的にサポートするための相談サービスまであるという。
政治体制と密接に関係
ロシア語圏でサイバー犯罪サービスが普及したのには旧ソ連の歴史や政治体制が密接に絡んでいる。
まず1991年のソ連崩壊と、その後の経済混乱だ。旧ソ連諸国の多くは極度の貧困に陥り、高学歴の優秀な若者らの多くが職探しに苦しんだ。「その結果、目を付けたのがサイバー犯罪だった」(岡本氏)。
2000年に誕生したロシアのプーチン政権もサイバー犯罪者の増大に関連がある。多くの場合、国境を越えて行われるサイバー犯罪だが、外国に犯人がいた場合、多くの国はその犯人の引き渡しを求める。しかし、プーチン政権は自国内の犯罪者を他国に引き渡すような行為には否定的とされ、その結果、ロシア国内を拠点にするサイバー犯罪集団が数多く現れた。
自らのツールやサービスが、「ホスト国」であるロシアに被害を及ぼさないようサイバー犯罪コミュニティーは通常、「ロシア国内は攻撃対象とはしない」との(…続きを読む)。