暗号資産のTVCMが招く高齢者詐欺の危機

昼間のテレビから流れる暗号資産のCMは、華やかな映像と「未来の投資」のフレーズで高齢者の心をつかみます。しかし、この無規制の広告が詐欺の温床となっています。特に、デジタルリテラシーの低い高齢者が「安全で信頼できる」と誤解し、詐欺被害に巻き込まれるケースが急増しています。2024年、米国で高齢者の暗号資産詐欺被害は28億ドルに達しました。日本でも同様の危機が迫っています。CMの自由はどこまで許されるのでしょうか。規制の必要性を考えます。
暗号資産は、ビットコインのような信頼性の高いものから、価値の怪しい「草コイン」や詐欺目的の「詐欺コイン」まで様々です。日本の警察庁によると、2023年の詐欺被害は約450億円で、暗号資産は投資詐欺やロマンス詐欺の道具として頻繁に悪用されています。2024年のChainalysis報告では、日本での暗号資産関連詐欺被害が約156.7億円、17.7%が投資詐欺によるものとされています。高齢者は、偽の取引所やフィッシングメールに騙され、資産を失うケースが多いです。
高齢者が標的になる理由は、テレビCMの影響力にあります。bitFlyerやCoincheckのCMは、暗号資産の可能性を強調しますが、価格変動や詐欺のリスクは小さな文字で一瞬表示されるだけです。テレビの信頼性に慣れた高齢者は、「CMで見たから安全」と誤解し、詐欺師の「信頼できる取引所」の偽装に引っかかります。2024年のUNODC報告では、東南アジアの犯罪組織が暗号資産を使った「ピッグブッチング詐欺」で高齢者を狙い、180~370億ドルの収益を上げています。日本でも同様の手口が広がり、被害は生活の困窮や家族への負担につながります。
日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、「必ず儲かる」といった誇大広告を禁じ、リスク開示を求める自主規制を設けています。しかし、法的拘束力はなく、違反への罰則も曖昧です。消費者庁の2023年調査では、暗号資産関連の相談が30%増加し、高齢者の誤認が問題となっています。CMは暗号資産の認知度を高めますが、「公的に認められた投資」と誤解させる副作用があります。
酒類CMでは、未成年保護のため平日5:00~18:00の放送を自粛する自主基準があります。しかし、暗号資産CMには同様の配慮がありません。高齢者が多く視聴する昼間の時間帯に、取引所のCMが頻繁に流れる現状は、詐欺の間口を広げています。CMの内容は規制されても、放送時間や頻度は野放しで、誤解を助長する構造が残っています。
暗号資産の匿名性と追跡困難性は、詐欺師にとって理想的なツールです。偽の投資話で高齢者を誘い、暗号資産を送金させる手口は、返金がほぼ不可能な点で悪質です。2024年の米国司法省は、暗号資産詐欺で900万ドルの資産を押収しましたが、被害者への補償は限定的でした。日本でも、詐欺被害の回復は難しく、予防が最優先です。しかし、CMが「安全神話」を広める現状は、この予防を妨げています。
暗号資産のTVCMに、酒類並みの規制を導入すべきです。第一に、放送時間帯の制限です。高齢者の視聴が多い平日9:00~17:00のCMを自粛し、深夜帯に限定します。第二に、リスク警告の強化です。CM冒頭で「暗号資産は詐欺に悪用される可能性があります」と明示し、画面全体で表示します。第三に、啓発放送の義務化です。金融庁や消費者庁が詐欺防止の啓発動画を提供し、CMと連動して放送します。第四に、法的規制の検討です。放送法や金融商品取引法に基づく基準を設け、違反企業に罰金を科します。
課題もあります。時間制限は(…続きを読む)。
